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  • 2007.09.25 Tuesday
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ニュージーランド・ワイヘキに伊東夫妻を訪ねて


 東京・南青山と赤坂のグリーンギャラリー店主として、30余年にわたって現代陶芸を中心とする様々な工芸展を1000回近く開催した伊東成憲さん(1919―)と夫人の和子さん(1944―)が、ニュージーランドに移住して、5年が過ぎました。永住権も獲得。最大の都市であるオークランド沖合の人気リゾート、ワイヘキ島の高台に居を構え、朝な夕なに太平洋を眺める静かな暮らし。展覧会のたびに少しづつ購入して作り上げた自らのコレクションから、40作家の70点を選び、このほどオークランド博物館に寄贈しました。同博物館は1852年の創立で、ゼロ戦の展示や先住民族マオリの文化財資料の収集などで知られています。寄贈を記念する展覧会「環」(かん)は、2月11日までの予定で開催中。12月10日夕に開かれたレセプションに、ニュージーランド航空の協力を得て出席したのを機に、伊東さん宅もお訪ねして、様々な話を伺いました。以下はそのレポート。
 レセプションは大変華やかでした。ロドニー・ウイルソン館長やディック・ハバード市長、岡部孝道・オークランド総領事らに加えて、マーテン・ウィーヴァー元駐日大使やそれぞれの夫人、陶芸家をはじめとする様々なアーティストやコレクターなど300人余りが列席。高齢のため今年に入って幾度も転倒している成憲さんは、慎重を期して車椅子で登場。和服姿の和子夫人が代表して演壇に立ち、「このコレクションを、末永く後世に伝えていただきたい」と英語で挨拶して、盛んな拍手を浴びました。出席者の多くが「立派な品々をありがとう」と、我が事の様に夫妻に感謝の言葉を掛けていたのが、印象的でした。


 寄贈品は個々のレベルや分かり易さなどを基準に、夫妻が選んだそうです。小野珀子(佐賀県嬉野、1925―96)は、1971年10月の南青山グリーンギャラリー開設第一回展を含めて、81年まで6回個展を行っています。釉裏金彩黄釉壷(高22.8 cm)は代表作の一つ。釉下の金箔は窯の熱で熔け崩れたり、器面を動いたりし易く、箔を厚くするなど様々に工夫を重ねて、漸く安定した成果が得られるようになったそうです。木村芳郎(東広島、1946―)の碧釉五稜壷(高26.5 cm)のブルーは、海の身近なこの国では受け入れ易い色調でしょう。92年以来、赤坂グリーンギャラリーで5回個展を開いていますが、最初に作品を買ったのは、オークランド在住の実業家だったそうです。深見陶治(京都、1947―)の白磁二個組箱(高13.3cm)は神社の狛犬のイメージだそうです。「阿吽(あうん)の意味を、こちらの人々に理解してもらうには、相当な説明が必要でしょうね」と、成憲さんが笑いながら話してくれました。南青山で91、95年に個展を開催しています。加藤清之(瀬戸、1931―)の灰釉千仏塔(高22.5cm)は小品ながら、存在感があります。兄弟で工房を営み、収益は平等に分け合う、ユニークな運営だそうです。赤坂での個展は80年から通算11回。長谷川塑人(金沢、1935―)は、九谷色絵白椿と群鳥図大皿(径46cm)が示す通り、斬新な絵付けが身上です。「伝統にこだわっていたのでは、面白い作品は出来ません」と成憲さん。77年の南青山を皮切りに赤坂も含め通算14回開催。寄贈作品中、ガラス作家志賀英二の2点を除く68点が現代陶芸。陶芸作家39人中、ドイツやトルコなど4カ国7人を除く32人が日本人です。襲名前の14代今泉今右衛門(有田、1962―)や八木明(京都、1955―)、前田昭博(鳥取、1954―)らの若手や、林康夫(京都、1929―)、柳原睦夫(京都、1934―)、久岡冬彦(奈良、1944―)、安田猛(英国在住、1946―)、塚本満(土岐、1951―)らベテラン、中堅がズラリと顔を揃えています。「海外の美術館に作品が収まれば、若い方々にとって励みになるのでは」と和子夫人も話しています。


 成憲さんは文豪幸田露伴(1867―1947)の長兄成延の長男である政吉の五男として、東京で生まれました。30歳で伊東槇雄の婿養子となります。槇雄は岡谷の製糸会社の駐在として京城(現在のソウル)に派遣されますが、大正末に親会社が倒産。現地で起こした製糸会社が成功して財を成します。敗戦ですべてを失って帰国。朝鮮古陶磁の収集家としても知られ、旧蔵の朝鮮王朝白磁壷は、韓国の国宝として梨花女子大が所蔵しているそうです。成憲さんは少年時代に露伴に勧められて日本橋の古美術店壷中居を訪ねたそうですが、本格的な陶磁器との付き合いは戦後で、槇雄の元に柳宗悦やバーナード・リーチらが訪ねて来るたびに箱を開けたり、片付けたりしたのが契機だったそうです。戦後間もなく諏訪で味噌の醸造と販売を始め、20年近く続けた後に東京に出たくなり、工場用地を売って南青山に土地を購入。槇雄と交流があった小山冨士夫(1900―75)に「いくらでも作家を紹介するから」と勧められ、71年にギャラリーを始めたそうです。小山のほか、美術評論家で当時、東京国立近代美術館事業課資料係長だった吉田耕三も、支援を惜しまなかったようです。成憲さんは自分のカラーを打ち出したくなって赤坂の土地を追加購入。80年にもう一つギャラリーを開きます。槇雄の次女だった夫人が亡くなって5年後の91年に、店の客でやはりご主人と死別して長く独身生活を続けていた和子さんと再婚。以降、外国語にも堪能な和子さんの助けを得て、海外の作家へと更に範囲を広げつつ、二つのギャラリーを切り盛りして来ました。


 2001年6月に日本を離れた後、夫妻は段ボール25箱分の展覧会資料を東京国立近代美術館工芸館に寄贈しました。これら等から南青山での展覧会は、1971―2004年の33年間(1997年は旅行や成憲さんの手術などで休廊、2002年以降は実務のみを外部委託)で計540回、赤坂が1981―2001年の22年間で計390回と分かります。このうち染織や漆、ガラス、金工や彫刻のみの展覧会は南青山で計53回、赤坂は28回。残りはすべて陶芸を中心とする展観です。個展やグループ展を開催した作家は両ギャラリー合わせて290人。うち陶芸が248人で、これには米国やトルコ、ニュージーランド、ドイツ、オーストラリアなど11ヶ国40人の外国人も含まれています。ほかに染織がトルコ人1人を含む17人、漆13人、ガラス8人、金工6人、彫刻1人。個展の回数が最も多かったのは1973年から始まる中里隆(唐津、1937―)の27回。72年にスタートした小山岑一(土岐、1939―2006)の26回と森陶岳(牛窓、1937―)の23回がこれに次ぎます。


 成憲さんに作家の選定基準を訊ねると「真面目が第一」と、やや素気ない答え。93年と2000年に南青山で個展を開いた金井正(糸魚川、1951―)は、「作品が売れなくても、全く気に掛けない。本当にびっくりしました」と、思い出を語ってくれました。売れっ子になって当初の志を失った作家について成憲さんが、「駄目になった」と厳しく批判するのを耳にしたそうです。85―2000年の16年間、年ごとにテーマを絞った食器展を年末に赤坂で続けた中里隆は、「店が続いたのは、工芸について余程しっかりした考えをお持ちだったからでしょう。こちらもキツかったが、手抜きせずに頑張らざるを得ませんでしたね」


 「加守田さんのように、収支が合う作家もありました」と成憲さん。南青山で72―80年に欠かさず続けた加守田章二(1933―83)の個展の人気は凄まじく、最晩年には開幕の前々日から徹夜の列が出来たほど。菓子折り持参で、隣近所に迷惑を詫びて歩いたそうですが、これは例外。ギャラリーのあるビル上階部分を賃貸しし、その家賃での赤字補填が常態だったようです。余りに売れ行きが悪いと、店主自ら作品を買い取ることも。寄贈した中にも、こうして手元に残った作品が数多く含まれているようです。こんな形で長期間にわたって作家を育て続けたギャラリーは、世界にも稀ではないでしょうか。


 ワイヘキは今が初夏。全島が緑と花々に包まれています。夫妻は野鳥の鳴き声で目覚め、北に面した日当たりの良い窓辺で、ゆっくり朝食を摂ります。赤道を越すと、日本とは逆に北向きの方が、日が当たって暖かいと初めて知りました。東西が約20キロ、南北10キロ足らずのこの島に、信号機は一つもありません。オークランド市街からフェリーでわずか35分。永住権を取得するには、定住後の2001年末から3年間にわたって、当時の換算レートで毎年150万円以上の所得が必要とされました。そのため車庫を改造した階下のギャラリーで約40回の展覧会を開催し、その後の健康診断もパスして、このハードルを越えたそうです。物価が安いこの国では、いま年240万円あれば足りるそうです。それなら2人分の年金で大丈夫。夫妻は、将来を見据えた簡素な暮らしを、早くも実践し始めているように感じました。


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